先日の読売朝刊の埼玉版で次の記事を目にしました。
「ふるさと納税大幅『赤字』 総務省が発表した2023年度のふるさと納税の実績で、県と県内63市町村への寄付総額は88億1400万円、流失額は445億4300万円で大幅な『赤字』だった。」
大幅赤字で際立っていましたのがさいたま市でして、寄附による流入額が6億3600万円であったのに対し、流失額は100億6800万円となっておりました。では、私の住むふじみ野市の場合はどうなのか、その記事には載っていませんでしたので、ネット検索しました。それによれば、寄附による流入額が3443.5万円であったのに対し、流失額は4億4874.7千円とやはり大幅な赤字となっております。
赤字分は国から地方交付税として補填される仕組みとなっているとはいえ、その75%分でしかなく、25%は「実損」となります。また、「財政力指数」という、その自治体の財政的な豊かさを表した数値が1を超える地方自治体にはこの交付税は対象とはなりませんから、地方交付税不交付団体(令和5年度の場合、埼玉県内では戸田市、和光市、八潮市、三芳町)はその補填がなく、「全額流失」となってしまいます。
この制度創設の背景には、「地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育などのサービスを受けて育ち、やがて就職などによって生活の場を都会に移し、住民税はその転出先の自治体に支払われる。その結果、都会の自治体は税収を得る一方で、故郷の自治体には税金が払われない。それはおかしいのではないか」という考え方があって、確かにそのとおりだという意見が多数を占めるようになって、制度化されたようです。もちろん、制度化されれば、都市部の自治体が税収減になることが初めから自明でしたから、かなりの反対が起きたようですが、地方選出の有力な国会議員の政治力によって押さえつけられ、始められたようであります。
制度化されて実際に起きたことは、寄附金獲得をめぐる自治体間返礼品競争でした。この制度は、なにも故郷ではなくても、どこの自治体に対してでもいいこととなりましたので、あっという間にカタログが出回り、どこに寄付すると何がもらえるか、どこの返礼率が高いかの競い合いが勃発したのです。
競争となりますと、有利に進めるためにはコンサルタントからの提案、入れ知恵などのサポートが不可欠になります。で、後でも触れますとおり、寄付金で得られる額の5割(返礼品の財源で3割、コンサルタントへの委託費その他経費で2割)をつぎ込む自治体が出てきてしまったそうです。
申し上げるまでもなく、住民は、いろんな面で住んでいる自治体からサービスを受けて生活しています。私の場合では、もはや子供が学校教育からは巣立ちましたから、最もお金がかかるとされている小中学校の教育サービスは受けておりませんが、その代わりに医療サービスの恩恵を受けています。とくに今回、2週間ほどの妻の入院治療で、258万円余りの7割分と、3割分のうちの高額療養費部分の約70万円の計250万円もの負担をしてもらうこととなりました。また、家庭ごみの運搬収集では、週5回、曜日によって、可燃物、不燃ごみ、粗大ごみ等々をすぐ近所のごみ置き場にまで無料で回収してくれています。その他、もろもろのサービスを受けていておりますから、返礼品のえさをまき散らしているどこぞの自治体に住民税を寄付しようなどという気持ちは、私には全く起きません。
土山希美枝さんという法政大学教授は、雑誌「世界5月号」に次のように寄稿しています。「ふるさと納税は、利用する人と指名される自治体とそれに介在する事業者たちによる『あなたとわたしで税金を美味しく食べましょう』というしくみだ。いわば、報奨還元(キックバック)型の税利用で、その半分が返礼品や委託費などに流失している。」
キックバック!派閥の政治資金パーティー券か何かで聞きましたっけね。 ふるさと納税制度はすっかり定着し、来年度には1兆円の規模に達するといわれております。もはや廃止はあり得ないでしょうから、よりましな制度への手直しを図っていくしかないのでしょう。