都内のある小学校で、昨年度の1年間に担任教師が4人代わったクラスがあったそうです。最初の教員が体調不良で休職し、特定の教科だけを専門に教える専科教員へ引き継がれ、その教員が辞めてしまったため、一時的に副校長が兼任し、その後、休職から復帰した別の教員へとバトンタッチされたのだそうです。

 教員の人出不足が深刻度を増しているようです。が、何も教員だけではありません。消防団員、民生委員、保護司、自治会役員・・・公的サービスの先端を担う職務のなり手不足も深刻化しているようです。

 この仕事に就くようになって気付かされたのが、家庭裁判所における人材不足です。これもリストラの一環なのでしょうが、職員定数が抑え込まれたまま、家事事件や少年事件は、そんなことにお構いなく、増加する一方です。やれ、調停だ、審判だと案件は次々と発生しています。

 さて、家庭裁判所の審判で決まる成年後見人について、その申立てが行われますと、その8割が専門職(弁護士や司法書士、社会福祉士等)から選任しているのがその実態のようです。

 家裁の担当官が十分に配置され、申立人との面接にもっと時間をかけて行われることが通常であれば、ケースに応じて、より柔軟な審判案が作成されることでしょう。が、職務多忙の中、無難にかつ迅速に案件を処理するとなれば、担当官としてみれば、リストアップされた手持ち資料をめくりながら、弁護士等の専門職後見人候補者の中から選んだ方が、ずっと楽に手続きを進めることができるわけですから、そうなってしまうのも無理からぬことなのかもしれません。

 例えば、私の妻が重い認知症に罹ってしまい、成年後見人の審判を申し立てるとして、家裁は私を後見人に選任してくれるでしょうか(老々介護ならぬ老々後見ですね)?私もまた高齢の身だとすれば、いつ認知症になるかもしれませんから、おそらく、内部資料のチェックシートとかによってはじかれるのではないでしょうか・・・子どもたちがいたとしても、後見事務処理能力が疑われたり、あるいは、子ども同士が対立関係にあるとかで、担当官の心証を害するようですと、間違いなく、彼らもまた、はじかれることでしょう。で、どこぞの専門職が選任され、妻の預金通帳を管理してしまうことになります。

 後見人は、御本人の権利擁護ファーストで判断して行動することがその職務ですから、得てして家族との間であつれきを生む場合が出てくることでしょう。例えばこんなケースです:被後見人となったお母さんには、かなりの額の預金があります。その子供の子(お母さんにとっては孫)が晴れて大学入学となったので入学金を祖母であるお母さんにカンパしてもらいたい・・・後見人はこれに対して「ノー」の判断を下すでしょう。「あんたなんかに言われたくない、これは家族間の事柄だ」ということで怒った家族が、家裁へその後見人の解任を求めたとしても、後見人が御本人のために判断・行動していると認められる限り、家裁による後見人解任など到底あり得ないでしょう。その一方、月額2万円以上とされている報酬が、御本人の預金口座等から、その専門職へ支払われ続けていきます。本人がお亡くなりになるまで、ずっと・・・

 それは、私などにはとても耐えらないことですから、きっと私は後見申立ての道は選ばないでしょう。でも、そうしますと、すでに金融機関によって妻の預金口座が凍結されていたら、妻の介護費用を妻の預金からはまかなえなくなります。これはこれで一大事です。さあ、困った・・・

 2000年に成年後見制度がスタートして23年余りとなりました。認知症の進行などによって、ものごとを判断する力が無くなった高齢者の身上保護や財産管理を行う後見制度自体は画期的なことでした。そして、国は2度にわたる利用促進基本計画を定め、「地域連携ネットワーク」づくりや、その中心的役割を果たす「中核機関」の設置促進などの後押しを図ってきました。

 この2回目の利用促進基本計画の中に盛り込まれたものの一つに、「後見制度支援信託」というものがあります。これは、御本人が所有する金銭のうち、日常的な支払いに充てるための必要十分な金銭は、普通預金口座に置いて後見人が支払い管理し、それ以外の、通常使用しないですむ余裕資金は信託銀行へ預けておくという制度です(信託銀行以外の金融機関へ預ける場合は「後見制度支援預金」といいます)。

 かつて私は、友人に頼まれて、その家族の後見申立てに同行したことがあります。そのケースでは、御本人の預金が1,000万円ほどあったからでしょうか、家裁担当者からは、後見制度支援信託を利用するようにと強く勧められました。申立人がそれに応じたところ、後見開始時には、ある司法書士が専門職後見人となり、その後見人の代理行為によって信託銀行への金銭信託手続きが行われました。その手続きが終了し、その後見人によって作成された御本人に係る財産目録及び年間収支予定表と合わせて家裁へ報告・提出がなされた後、その後見人が自ら辞任を申し出て、その申出を受けて家裁が当初の申立人をその後任の後見人に選任してくれました。めでたしです。もちろん、信託銀行への報酬が新たに発生するでしょうけれども、専門職後見人がずっと就任し続ける場合と比べれば、かなり安価で済ませられました。

 このように、成年後見制度の利用促進に向け、いろいろ工夫がなされてきているのですが、それでも、想定されるほどには利用が進んでいないようにも思います。そして、その一因が、家庭裁判所の方々のご努力には敬意を表しますが、やはり人材不足にあるような気がしています。