内閣府の調査によれば、2025年には65歳以上の認知症患者数が高齢者人口の20%になると推計されています。認知症を防ぐためにはどうすればいいのか。高齢者の精神医療を専門として6000人以上の高齢者を診察してきた和田秀樹氏によれば・・・

「例えば、家事をこなすことは適度な運動になり、同時にかなり頭を使います。料理は『どんな献立にするか』、『冷蔵庫のどの材料を使うか』、『足りないものは別のもので代用するか』等々、調理を開始する前から考えることがたくさんあります。いざ調理を始めれば『お鍋を火にかけている間にネギを切る』、『フライパンで玉子を焼く間にトースターで食パンを焼く』などと一度に別々の行動をする場面が多くあって、この『同時に2つ以上の行動をする』というのが脳の活性化には効果的です。調理で包丁を使う際の手先の細かな動きも、脳への刺激になります。

認知症であっても日常的な家事はこなせるし、テレビやパソコンなど使い慣れた機械であれば操作も問題ありません。読書や俳句づくりを習慣にしてきた人なら、これも変わらずに続けられます。ただし、頭を使うといっても、いわゆる『脳トレ』はほとんど効果がありません。たとえば数独、脳全体の機能が活発化するわけではなく、単に数独ができるだけのことでしかありません。 

ではいったいどうやって『頭を使う』といいのか。それは、他人との会話です。他人としゃべる時には強制的に頭を働かせる必要があります。自分が話したことに対して相手からの反応が返ってくるというやりとりで「頭を使う」ことが、有効な脳のトレーニング法となるのです。

また、新しい店に出かけたり、読んだことのない作家の小説を読んだり、可能ならば俳句を詠んだり小説を書いてみるといったような、何か新しいことに取り組んでいくことも脳への刺激となります。老人会や地域サークルに参加するのもいいですし、今はたいていの高齢者がスマートフォンを持っているでしょうから、そこでSNSを活用してみるのも一種の社会交流です。 

認知症の進行度合いを見た時に、『独居のほうが遅い』こともわかっています。朝起きて布団をたたみ、朝食をつくり、散歩に出かけ、近所の人と顔を合わせれば世間話をする。そんな毎日のことが認知症の進行を遅らせるのだと考えられます。」

かつて、「患者よ、がんと闘うな」で日本の、手術偏重のがん対策を厳しく批判した近藤誠医師(令和4年以虚血性心疾患で死亡)の主張に共鳴した私は、いまは和田医師が提唱する高齢者への生き方指導に感銘しております。